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「両利きの組織をつくる」を読んで日本企業の組織進化・経営を考える

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「両利きの組織をつくる」を読んで日本企業の組織進化・経営を考えるイノベーション
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新規事業の探索と既存事業の深堀を行う「両利きの経営」について理解するために「両利きの組織をつくる」という本を読みました。

とてもわかり易くておすすめですので当ブログ記事にて紹介すると共に、日本企業における組織進化や経営について考えてみました。

両利きの経営とは既存事業の深堀と新規事業の探索を両立させた経営

両利きの経営とはチャールズ・A・オライリーが推奨している経営手法で、「既存事業の深堀」と「新規事業の探索」を両立させる経営理論の事です。

企業にとって現状の経営を維持・伸展するために利益確保するための既存事業は重要であり、これを深掘させていくことは必須です。

一方で企業が永続していくためには既存事業の深堀だけでは足りません。

時代のニーズや社会の変化に合わせて新規事業を探索し、その探索した新規事業を利益に結び付けていく必要があります。

こちらのブログ記事ではイノベーションに関連する組織運営、新規事業に関して、失敗事例とその対策、他にもおすすめの書籍について紹介しています。
是非併せて参考にしてください。
→ ブログ記事「製造業イノベーション組織・新規事業プロジェクト 総まとめ」

書籍「両利きの組織をつくる」のおすすめ

チャールズ・A・オライリーが発表している「両利きの経営」というそのものの書籍(「両利きの経営」日本語訳)もあります。

もちろんそちらも読んだ方がいいのですが、今回紹介する「両利きの組織をつくる」は、日本企業における両利きの経営の実現についてフォーカスして書かれています(著者も日本の御方)。

そのため感覚的にも非常にわかり易く説明されており、理解しやすいのです。

私も日本人のメーカー勤務のエンジニアなので非常に納得感がありました。

日本企業における両利きの経営の成功事例としてAGC株式会社(旭硝子)の実例を紹介しながら、どうすれば「日本型経営の行き詰まり感」を打破することができるかについて、書かれています。

特にAGCの事例については日本の製造業、メーカーとして新規事業の探索を行う組織の位置関係なども含めて具体的に解説されています。

特にメーカーにおける経営企画関連部門や新規事業、イノベーション推進に近しい人にとっては大変参考になると思いますのでおすすめです。

「両利きの組織をつくる」を読んで日本企業の組織進化・経営を考える【エンジニア視点】

ここからは私個人の思うところをまとめています。

日本の大企業には昔の成功体験を引きずったままトップダウン型の組織体制の継続に行き詰ってしまっている企業が多くなっています。

企業自身がその状況に気付いていないパターンや仮に気付いていても対応ができていない会社もあります。

社員アンケートや外部コンサルによる調査などから
「なんだか社員のモチベーションが落ちてきている」
「帰属意識が落ちてきており、離職率も徐々に上昇している」
「生産性が落ちてきている傾向が出ている」
これらの状況がわかってきて、初めて問題視されることもあります。

ただし私の考えとしてトップダウンによる経営手法そのモノを否定しているわけではありません。

企業における課題に対して経営層にて優先順位を付けてそれぞれに対して投入するリソースを決定し、最大限に効果を発揮する。

効率的な経営のためにはトップダウンは適した経営手法、組織体系です。

従業員にも100%かそれ以上の負荷を掛けて可能な限り大きなアウトプットを回収することが、会社の利益につながるのですから。

でもそれって社員にしてみると疲れちゃうんですよね。
そこにいる限り、ずっと負荷を掛けられた状態が続くのですから。

日本型企業で規律重視のトップダウン型の経営が機能しやすいのは、勤勉で同調意識の強い日本人の資質も大いに影響していると思います。

もちろん仕事なので会社の要求に応えるべくベストを尽くします。
対価として報酬も受け取っていますので、そうすべきです。

一方で100%かそれ以上の負荷を掛けられた環境の中で
「チャレンジしよう」
「新しい事を始めよう」
「なにかボトムアップの提案はないのか?」
「発言だけでなく新しい行動しよう」
と言われても、困りますよね。。

「今やっている業務どうするんですか?」

といった感じです。

つまり現状はトップダウンに最適な組織体系でフルに負荷を掛けられフルに業務をしているわけで(それが利益最大化に必要だから)、その体系の中では「新しい提案」や「ボトムアップ提案」をすることが想定されていません。

ボトムアップ型の企業運営を導入するのであれば、それに適した社内の提案フローやシステムを考える必要があります。

新卒一括採用からの終身雇用が行き詰っている事を見ればわかるように、やはり時代に合わせて企業のあり方、企業文化は変化していくことが必要です。
(あの日本を代表するトヨタの社長までも終身雇用が難しいことについて言及しています)

日本社会は既に成熟化しています。

トップダウンが最適だった旧来の大量消費、大量生産の時代からは社会が変革しており、個人のニーズ自体も多様化して、企業が先を見通すことが大変難しくなってきています。

私(現在40代)の若い頃のようにみんなでスキーやスノボ、新卒入社半年くらいでお金が貯まったらみんなが車を買う、結婚したら新築一戸建てを買う、というような時代ではなくなっているのです。

もちろん新興国ような社会成長の著しい国に旧来の供給をあてがうことで確実に利益を確保することも重要です。

それは既存事業の深堀の継続として、利益が得られる環境を探して確保していくことも可能であり必要なことです。

そのように既存事業で利益を叩き出せている間に新規事業の探索ができる企業文化を作り、新規事業を利益に結び付けなければなりません。

成熟社会においては需要は多様化しています。

個人がスマホ画面で見ている興味はそれぞれ、買っているものも様々です。

消費者自身も自分のニーズを把握していないパターンですら企業が先読みして商品をリリースしなければいけません。

AIによる未来予測や市場分析、ニーズの探索も盛んになってきました。

そんな需要の見極めの難しさに追い打ちをかけるようなリーマンショックや新型コロナなど経営に対して大きなインパクトとなる突発トラブルも乗り越えなければいけません。

このような社会変化の背景からもわかるように企業が永続していくためには「新規事業の探索」は必要不可欠であり、会社も新規事業の探索ができる組織に変わっていく必要があります。

新規事業に伴うリスクを限定する必要がある

新規事業の探索が必要なことは上記に書きましたが、一方で新規事業には当然のようにリスクが伴います。

「100個やって5~6個でも事業化できればいい方」などと言われることもありますが、新規の提案が将来の何十億の事業に発展するかどうかは、提案した時点では誰もわかりません。

よって幅広く迅速に着手していく、ダメならやめて次へ、というフットワークの軽い新規事業に適した探索のアプローチが必要です。

このアプローチは既存事業のようにしっかりと優先順位や費用対効果を精査し、適したリソース配分を投入するアプローチとは異なります。

将来に利益が出るかわからないテーマに対して、工数をかけてじっくり精査しながら大量リソース投入していては非常にリスクが大きくなってしまいます。

よって企業は既存の事業に影響を受けないように、新規事業に掛かるリスクを限定して対処する必要があります。

利益や余剰資金の中から先に新規事業に投入する金額を決めて、人的リソースも既存事業とは分けて、その範囲内で進める方法です。

この新規事業のリスク限定でよく言われるのが「企業出島」という考えです。

新規事業の探索に費やすコストやリソースを「出島」として分離することによって、リスクを限定するという考えです。

ただし、この「分離」を重要視し過ぎてしまうと新規事業を担う部門や人々が既存組織から孤立してしまう問題が発生します。

既存事業と上手に”繋がる”ことによって既存の企業文化を変えていく

特に長らくベースとなる技術、製品が同じ企業であると、その文化が強すぎることによって、新しい事、新しいものが排除されてしまうことが発生します。

これは一概に悪い事ではなく、いわゆる免疫機能のようなイメージだと思っていただけるとわかり易いと思います。

「長く続いている企業」というのはその企業文化、経営方針から外れるものや人材が自然と淘汰されており、だからこそ長く続いていくことができている側面もあるからです。

順応できた人材が生き残っている、会社の考えや文化に近い行動ができる人間が自然に上に上がっていくのですね。

私の所属している企業もベース技術、製品は創業以来ずっと同じなのですが、このような傾向を感じます。(どこか似ている社員が多い、安定志向の性格の社員が多い印象)

念押ししますが、それは決して悪い事ではなくて、より利益を生み出せる技術、製品、分野に集中できていて、その利益を最大化することができていた、だからこそこの時代まで会社が続くことができた、と言えます。

それ故に、その会社の中で重要な文化は大事に残し、さらに深掘させていく必要もあります。

長い歴史を持った企業、生き残っている企業はその環境、企業文化によって、ずば抜けて新しい事を発想する、発言するような人材が生きにくい、残りにくい企業文化になってしまっている側面があるのです。

例を挙げてみるとAppleやGoogleのような会社の対局に居るイメージですね。
(どちらがイイ、悪いという話ではありません。日本企業タイプの規律やルール重視なのか今ドキ企業の自由主体なのかといった企業文化の違いです)

よって新規事業を探索する部門や新しい発想のできる人材を上手に分離して”しっかり守る”と共にそれを育てて、既存事業とうまく繋げる、融合することによって既存事業の企業文化を徐々に変えていくことが重要となってきます。

「新規事業の探索」と「既存事業の深堀」はどちらも重要です。

上手に両利きの経営をすることで社員の意識や企業の文化に対して変化をもたらし、更なる進化を遂げていくことが必要なのですね。

これからの製造業の会社としての方向性を考えるのによい勉強になりました。

両利きの経営を理解するのにおすすめの本「両利きの組織をつくる」

というわけで、両利きの経営を理解する上でこの「両利きの組織をつくる」はとてもおすすめです。

AGCのような実際の日本企業の事例を挙げられているので具体性もあり、また「新しい事に取り組む時の感情的な部分」もかなり挙げられており、私も同じメーカーにいる一人のエンジニアとしてかなり腑に落ちる内容でした。

両利きの経営や新規事業、イノベーションに関わる御方に是非おすすめしたい一冊です。

こちらのブログ記事ではイノベーションに関連する組織運営、新規事業に関して、失敗事例とその対策、おすすめの書籍について紹介しています。
是非併せて参考にしてください。
→ ブログ記事「製造業イノベーション組織・新規事業プロジェクト 総まとめ」

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